新作歌舞伎刀剣乱舞(とうかぶ)『月刀剣縁桐』を観てきたよ

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新橋演舞場で公演中の新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』(つきのつるぎえにしのきりのは)を観てきました。

歌舞伎が初心者のとうらぶファンも刀剣乱舞を知らない歌舞伎ファンも楽しめる演目で、一言でいって大満足でした!叫び(感想)は千秋楽の後に公開するとして、ネタバレに触れない範囲で感想をまとめておこうと思います。(公開されているレベルのネタバレは含みますのでご注意ください)

↓ネタバレ込みでの感想もぼちぼち公開しています。

歌舞伎本丸について

刀剣乱舞はPC・スマホゲームが原作です。

プレーヤーの数だけ本丸(家と本陣を兼ねたようなもの)がある、という設定のため自由度が高いのが魅力のひとつ。

そうした設定を体現するようにメディアミックスも数が多く、アニメは『刀剣乱舞-花丸-』と『活劇 刀剣乱舞』の2種類、2.5次元は『ミュージカル刀剣乱舞』と『舞台 刀剣乱舞』、映画2作品、刀剣乱舞無双、と幅広く展開しており、それぞれ少しずつ独自の設定があったり、キャラの性格や関係性に違いがあったりと個性があります。

  • 審神者は声だけの出演(中村獅童さん!)
  • 人間とは深く関わってはいけないらしい
  • 怪異とか呪いが普通に存在している世界観
  • 敵の怪異が時間遡行軍を下につけられるくらい強い
  • どの男士もけっこうおちゃめで素直
  • 表情に出てしまうタイプの三日月宗近

あたりが特徴的でした。

王道のストーリー

今回の出陣先は永禄年間。敵である歴史修正主義者たちの狙いは、足利義輝が松永弾正(久秀)に討たれる「永禄の変」を改変し、弾正を始末し義輝を生かすことで戦国時代の到来を遅らせること。

それを阻止するために男士達は過去に向かいますが、三日月宗近だけは過去の持ち主だった足利義輝を思ってか憂いを帯びた表情を見せての出陣となります。

出陣先では無事に義輝と弾正に出会います。名君になりそうな気配がムンムン漂っている義輝に忠義に篤い弾正。永禄の変なんて起こりそうにない二人でしたが、異形の者たちに操られた義輝は徐々に暴君になっていきます。蟄居を命じられてもなお主君に仕えようとする弾正でしたが、息子久直の命がけの訴えもあり、義輝を討つことを決意する——

というのがざっくりとしたあらすじです。

「刀剣男士が歴史を守る」という部分以外は王道のストーリーなので刀剣乱舞を知らない歌舞伎ファンも入り込みやすいと思います。

悪人として描かれることの多い松永弾正が実は真面目で忠義に篤かった、という通説と逆のキャラクター設定もいい意味で王道。

ストーリーラインを追うだけでも楽しめますが、弾正の義輝に対する忠義と苦悩、三日月宗近の義輝に対する情や葛藤と久直の世の中や歴史に対する忠義、義輝と紅梅姫に対する三日月宗近の言動の違い、呪い(足利家への恨みを持った民)と忠義など、随所に対照的な要素が取り入れられているため、何度も鑑賞して深く味わうことも可能です。

歌舞伎刀剣乱舞は正統派な「古典芸能の入り口」

新作歌舞伎、こえりの中では超歌舞伎と完全にごっちゃになっていたため、新しい表現手法を使ったダイナミックな演出をしているイメージがあったのですが、実際に観てみたら正統派な「古典芸能の入り口」でした。

新作歌舞伎を作って歌舞伎に触れてこなかった人たちを呼び込むというのであれば、派手な演出やわかりやすさ重視で来るものだと思っていたのですが、「とうらぶファンなら多少敷居が高くてもかえって喜んでくれるだろう」というような、敬意と信頼を感じる演出の数々でした。

演出の尾上松也さん自身も

“見たことのない古典歌舞伎”を目指して、これぞ歌舞伎という要素を沢山盛り込みたいと(後略)

——筋書き(公演パンフレット)より引用

とおっしゃっていたように、大がかりな舞台装置に豪華な衣装、早着替えに生演奏に生義太夫に絵になる殺陣に大向こうに……といった歌舞伎ならではの演出がふんだんに盛り込まれていて、歌舞伎が今まで積み上げてきたアイデアや技術を惜しみなく見せていただいた気分です。

「歌舞伎ってこういう技や演出を使うんだよ。どう?古典も観てみたいと思わない?」というような、信頼をベースにした優しい布教をされている感覚でした。

歌舞伎初心者もとうらぶ初心者も楽しめる配慮あり

とうらぶ歌舞伎を観に来ている客層の割合は、勝手に「とうらぶファンで歌舞伎は初心者」「歌舞伎には詳しいけどとうらぶは初心者」「とうらぶにも歌舞伎にも詳しい」でざっくり7:2:1くらいかな、と思っています。

(ちなみに「とうらぶにも歌舞伎にも詳しくない」層も一定数観測しています。すごい)

そのためか、イヤホンガイドは幕が上がっている間だけでなく、開演前後や幕間にも歌舞伎の楽しみ方や劇場の解説が流れていてかなり充実していました。

原作ゲームで三日月宗近役を演じている声優さんの解説もあったのも原作リスペクトを感じて嬉しかったです。

また、開演前などは役者さんたちが客席に来て刀剣乱舞についてや歌舞伎についてなど、ちょっとした解説をしてくれました。

彼らが来てくれるのは「審神者が密集しているエリア」。そう、先行チケットを入手した人たちが詰め込まれているとして炎上していたエリアです。炎上したからサービスしてくれているのか、元々ファンサのために固めたのかはわかりませんが、どちらにしても間近で解説を聞けるのはありがたい。

ちなみに公演中以外は撮影可能なので、スマホを向けると笑顔でポーズをとってくれます。ごく少数ですがプレゼントをもらえるチャンスもあるので観劇予定の方は早めに席に着いておくのをおすすめします。

そしてなんといってもとうかぶの一番の特色は、写真撮影可のカーテンコールがあること。

カーテンコールでは役者名や役名を呼んでもいいので、大向こうとはまた違ったカジュアルな声援を送れます。

舞台と花道を歩いて客席に笑顔を振りまく刀剣男士、アクロバットを披露する時間遡行軍、役名で呼ばれたので気付くのが遅れた中村梅玉様(人間国宝)など、目が足りないくらい盛り上がります。

「〇〇様ー!」といった黄色い歓声があちこちからあがる華やかさは、「江戸時代の娘さんたちもこんな感じでキャーキャー言っていたのかしら」なんて過去に思いを馳せていました。

まとめ:歌舞伎刀剣乱舞再演希望

当作品がこれからも長く皆様に愛していただき、古典歌舞伎と呼ばれるまで受け継がれていく事ができましたら、この上ない幸せです

——筋書きより引用

筋書きに載っていた尾上松也さんのこのメッセージを読んで、人の手により受け継がれて古典になっていく歌舞伎と、数百年~千年と年月を重ねていく刀の在り方が重なりました。

どちらもただそこにあるだけでは後世には引き継がれないところも重なります。

作り手の情熱、観客の情熱を共に感じる観劇体験でしたし、これだけの作品が世に出たところに立ち会えているということがとても嬉しいです。

千秋楽の配信は購入予定ですが、それはそれとしてすでにロスが始まっているのでぜひ来年早々にでも再演してくれませんかね……。一か月弱の公演で終わるにはあまりに惜しいです。そしてそのあかつきには地方在住の方のために地方公演もぜひご検討を!

追記:2024年にシネマ歌舞伎として全国で公開されることが発表されましたね。今から楽しみです!